Moment

ふと思ったことを書き留めるために作りました。試運転中のため不定期更新。

T.F.

あの日がわたしを変えた、と言っても過言ではない。

 

一歩一歩進むごとにライブ会場に近づいていく。チケットを握る手に力が入る。このワクワク感がたまらない。わたしはライブに行ったのだ。このワクワク感を知る人がいるならば、わたしがこれから書くことも当たり前のように感じるかもしれない。

 

今から1年ほど前、どこかに出かけたいと、ふと思う日があった。

その頃のわたしは事情が重なって出かける気力も体力も尽きていたようなものだったが、どういうわけかとにかくその日は出かける気分になった。当時そういう気分になるのは珍しいことだったので、せっかくだから行く場所を決めておくことにした。

最初に思いついたのは温泉旅行だ。日帰りでも行けるし、どこかに泊まってもいいと思ったが、温泉に行く気分ではなかったので止めた。

次は街歩き。横浜中華街のような場所で一日小籠包か何かを食べてひたすら歩く。それはそれで楽しそうだが、これも気分の問題で却下した。

 

いろいろなサイトを調べて、たまたま辿り着いた場所があった。

わたしは好きなバンドのアリーナライブが近日中に開催されることを知った。まだチケットは取れるようだ。それまでバンドのライブに行くという考えすら持たなかったわたしは、一瞬行くかどうかためらったが、その日に限って、という言葉があるように、わたしはその日に限ってチケットを買った。なぜかは分からないが、気が付いたらそうなっていた。無意識下の「わたし」は、こうすることを望んでいたのだろう。たぶん。ライブ当日になり、わたしはインターネットで調べた「ライブで必要な持ち物」を完璧に準備し、高鳴る胸とともに自分でも驚くほどの軽い足取りで会場に向かった。

 

ここで書いておかなければならないことだが、わたしはそれまでライブに行くほど行動力のある人間ではなかった。バイトと家の往復を繰り返していて、寝ることと食べること以外への気力が湧かなかった。同じ日常を繰り返しているとどうやら気を病んでしまうらしく、当時のわたしは現在と比べ物にならないほど精神的に参っていた。

わたしの趣味は、音楽を聴くことだった。これは今でも変わらない。小中高と、模範的でおとなしい生徒と言われていたわたしは、中学生の頃かかロックやメタル、ゲーム音楽を聴き始めていた。わたしの周りに同じ趣味を持つ友達はいなかったし、「みんなと同じ」が正義だったあの場所では、わたしは「模範的な生徒」でありつづけた。MGS2のオープニングソングが好きとか、「さよなら傷だらけの日々よ」とか、「Edie(Ciao Baby)」とか言ってもきっと誰も分からないんだろうなあ、という感じの孤独を感じていたことは覚えている。

孤独なわたしはいつも音楽の世界に浸っていた。音楽を聴いているときだけ、何でもできるような気がした。そのときだけ、わたしは孤独ではなかった。

 

初めて行ったライブで、わたしは前にいた人に流されるまま人の波に乗った。そう、人生初のライブにして人生初のダイブである。ちなみに、サークルは何回か、Wall of Deathは2回混ざった。なにもかもが人生初だった。初めてのライブでこんなに暴れた人間はいるのだろうかと思う。いるかもしれないが。あまりの汗だく具合に、風呂上がりかと自分にツッコミを入れたくなった。

もちろん、暴れただけじゃない。彼らの力強く優しいメロディーと歌声が、その場にいたすべての人々に何かを感じさせたようだった。「生きろ」と言われているような感じがした。日常生活で何百回生きろと言われても、この一瞬には叶うまい。彼らの「音」は、確かに、誰よりも、何よりも優しかったのだ。

わたしはもう大丈夫だ、と思った。

 

わたしはこうすることを望んでいたのかもしれない。それまでの「わたし」が知らない間に閉じ込めてしまった「わたし」を、本当は何とかしたかったのかもしれない。「わたし」が「わたし」であると感じることができるように、何かに助けてほしかったのかもしれない。

音楽を聴くわたしの心は軽い。いつだってそれは愛に溢れている。